NPCのストーリー 酒場の常連たち
2011年4月23日 ゲームhttp://www.wizards.com/DnD/Article.aspx?x=dnd/dufe/201103tavern
NPCのストーリー 酒場の常連たち
マット・サーネット
誰にでもストーリーはある。ダンジョンズ&ドラゴンズのキャラクターすべてにも。
もし君がもっとロールプレイに凝ってみたかったり、セッションを活発にする方法を模索しているなら、ちょっとだけノンプレイヤー・キャラクターに時間を割いてみるのはどうだろうか。キャラクターの背景だけでも面白いものになるかもしれない。2行の文章やちょっとした注意書きがロールプレイの中身をとても充実させ、プレイヤーに酒場で英雄の隣に座った人たちとおしゃべりをするきっかけをくれる。
この記事は、英雄たちが次に酒場を訪れたときにいるキャラクターをまるまる一揃い書いている。そのまま使ってくれてもいいし、アイディアの思いつくまま設定してくれてもいい。すべてのキャラクターには物語があり、それが遭遇や冒険につながったりつながらなかったりする。もちろん、英雄たちが酒場の人間すべてと話をするというのはないだろうが、それぞれについて何かしらちょっとだけでも知っておくのはロールプレイの基礎になる。そして、巻き添え必至、酒場名物大喧嘩が勃発し、君はこのD&Dの伝統に独自の色を加えて活きたものにできる。
アール=ワインライト、ヒューマンのギャンブラー
アールは酒場のずっと奥側の席につき、景気をつけようと深酒をあおっているところだ。彼はケチな賭けのために、とても悪い連中に対し巨大な負債をこしらえた。負けの金額はとても大きいため、おそらくアールは支払えないだろうし、悪い連中もそれをわかっている。連中は、負け分を払う代わりに、地元のペイロア寺院から聖なる剣を盗んでくるよう指図した。期限は明日の正午なので、アールは今夜剣を盗むつもりでいる。・・・もう何杯か飲んだ後で。
サデュース・モーカス 恋にうなされたハーフエルフ
サデュースは角の席に座り、こぼれたエールの池ができたテーブルで何やら書いている。その指先は「ファラー」と名前の入った女性の絵と、大雑把な間取りの記された貴族の家とを交互に行き来する。サデュースは地元の貴族の娘、ファラー・ナイトハートにベタ惚れ真っ只中だ。ファラーの父は、近隣の町に住む貴族の子弟と婚姻を取り付け、両家のよしみを結んで二つの町の影響力を増すつもりでいる。サデュースは壁から家に押し入り、ファラーを救出して駆け落ちする計画を考えているところだが、それには守衛に番犬、そしておそらく魔法がかかっていると思われる彫像を何とかしなくてはならない。
ブリーナ・タインウィッスル ノームの元店主
ブリーナはブリキ屋兼修繕の店を同じ場所で長年続けてきたが、最近ガート・トーバーによって、競合するブリキ屋も扱う大きな何でも屋を出され、商売が傾いた。以前からブリーナはガートが自分の商売を干上がらせるつもりかと疑っていたが、店のある建物がガートの手に渡り、彼女に法外な賃料を吹っかけたときにそれは確信に変わった。わずか一日で、彼女は店をたたんでよそへと移る決心を固め、同情してくれた友人たちと飲んでいる。その時、ガートがそうと気づかず酒場の入口をくぐった。今やブリーナの視線は彼の後頭部に穴を開けんばかりに突き刺さり、エールのジョッキを持つ手は真っ白になっている。
ガート・トーバー ヒューマンの商人
ガート・トーバーは気さくで愛想のいい男だが、ことビジネスになると情け容赦がない。彼はちょうど道路建設のための用具と物資を売る契約をまとめてきたところで、妻子の待つ自宅で夕飯を取る前に、祝いがてら酒場で働いている情婦と飲もうと立ち寄ったところだ。外から見渡してもお目当ての彼女の姿が見えないため、エールを飲んでいるときに現れはしないかと、彼は酒場の中へとにじり寄っている。
アーチン・ホワイトハンマー ドワーフの職人
地元にある沼近くを通る道路を整備する計画があり、アーチンはその職人頭だ。道があれば、隊商が他の町まで移動にかかる時間が減り、結果として両方の町の取引が増える(もっとも、軍隊も移動しやすくなり、また他の町の権力者から逃げられるようになるわけではない)ことだろう。最近の大雨による「事故」がもとで計画は遅れてしまい、さらに数日前、作業員は沼へ向かう途中みな蒸発してしまった。アーチンはとあるエルフを魔女だと訴え、これで問題は片付くだろうと思っていたが、件のエルフの女性はすぐに解放されてしまった・・・明らかに無実だったのだ。アーチンはこの事態に、そして誰が真犯人なのかに悩まされて周りが見えなくなっており、身の回りで何が起ころうとしているのか全く注意を払っていない。
カーヴァー、ゲブ、ダーン 飲み仲間
この3羽ガラスは酒を飲んで騒いで、前の酒場をたたき出された後、どこかに落ち着こうとしているところだ。ゲブは、兄貴分でドワーフのダーンからエールではなくエルフ謹製ワインを欲しがっている。そのほうが「落ち着く」というのが言い分だ。ダーンは手の届くところにあるものなら喜んで飲みたがるが、“ベリージュースみたいな弱い酒”には手を出さない。ヒューマンのカーヴァーは不機嫌に押し黙って杯をあおっている。酔ってはっきりしない視界の向こうに、元彼女と最後に訪れた場所を思い返しているのだ。その彼女はハーフエルフのアーティストに乗り換え、彼との関係は終わった。
グランドバー・ロングウィスカー ドワーフの鉱夫
近頃グランドバーは、近隣にある銀山の採掘権を獲得した。だが問題もある。原始的なゴブリンの一族が、彼の銀山ですでに掘っているのだ。地元の住民からは、ゴブリンたちが鉱山で掘り出した銀を使った矢や槍を使うことから、「光り物族」として認知されている。グランドバーの契約では、ゴブリンどもと取引するか、鉱山から追い払うかのいずれかを自分でしなくてはならないと明示されている。グランドバーは「不潔な野蛮人」と一緒に働くことなど想像すらできないため、傭兵に頼むつもりでいる。そんなことをした経験はないので、彼は相場がどれほどのものか知っておくため、傭兵や商人と話をしたがる。
水夫と盗賊
この一帯にいるヒューマンとハーフリングの水夫たちが、もっと食い物と飲み物を持ってこい、としょっちゅう叫びながら、中央のテーブルで騒がしい夕食をとっている。そのなかの3人、片目のダナド、外れ結びのアンデレ、義足のグレッグは、街にいる間にやるつもりの、ちょっとした盗みの計画を立てているところだ。三人は他の連中が感づく前におさらばするつもりでいるが、必要とあれば、この騒がしくとても酔っぱらったお仲間どもをアリバイとして使うつもりでもある。彼らは金がたんまり、あるいは高価なアイテムのありそうな寺院や貴族の屋敷を探りたいところだが、どこに狙いを絞るかという話がまとまらず、時間だけが無駄に流れている。
ブランディス、ヒューマンの処刑人兼拷問吏
ブランディスは地下牢で処刑人兼拷問吏として働いている。誰もができるような仕事ではないが、自分が罰しているのは咎人だけだと考えることで、苛む罪の意識を薄めようとしている。だが彼にとって不運なことに、自分が拷問した何者かの無実が証明され、釈放されてしまったのだ。そして今、英雄たちが酒場ですごしているその時、誰かが入ってきて、ブランディスの近くに座った。ブランディスは仕事をしているときは仮面をかぶっており、城の外の人間は自分が拷問吏だということを知らないとはいえ、無実のエルフは話し声で自分のことを分かり、復讐をしはしないかと怖がっている。ブランディスは口を利くことなく食事を終え、この場を立ち去ってしまいたい。
ダラ エルフの賢人
ダラは沼の近くに住んでおり、訪れる者に薬草の治療と助言をして助けている。数日前、彼女は沼地を通る道路建設の妨害した容疑をかけられ、地元の領主の兵士に地下牢まで連行され、そこで拷問された。現場の「事故」は魔法によって引き起こされた、という嫌疑の証拠が彼女に突き付けられた。ダラは道を造ることこそが沼地に対する侵略であるとやりかえし、ダラの友人や後援者が彼女を助け、一分の隙もないアリバイを主張し、彼女には魔法を使える能力がないことを請け合った結果、とうとう彼女は解放された。いま、ダラは酒場に来て、誰が彼女を告発したのか、この問題の裏にどういう真実があるのか情報を集められればと思っている。酒場の中に入って席に座り、調べ物を始めるつもりだ。
バラサー ドラゴンボーンのウィザード見習い
バラサーはカーテンで仕切られた席に座り、酒場の騒がしい客どもを気にしないように、師匠から「お借りした」地図に集中しようと頑張っている。マップの記述はエルフ語で、話すことができるなら簡単に分かる程度の古文体なのだが、バラサーの理解ではとても及第点とは言えない。地図の示す先に高価で強力なマジック・アイテムで詰まった財宝が隠されている、と彼は信じているため、他の誰にも地図を見せようとはしない。地図にはマジック・アイテムの危険性と、その場所は不心得者に対する備えがされているという注意書きがあるのだが・・・
エリザ・ターンストーン ヒューマンの口やかましくて喧嘩っ早い女
エリザはいつも通り夕飯遅刻常習犯の夫を探している。がみがみうるさく癇癪持ちな気性とあいまって、エリザはまるで狩りにでも来たかのように見える。彼女は部屋の中央に仁王立ちし、夫に隠れてないで出てこいと叫んでいる。この剣幕を笑える強者がいたなら、たちどころにお前が私の亭主を逃がしたのかと食って掛かるだろう。
ロヴィオスとナディア ヒューマンの酒場の主人とコック
この陽気な男は、常日頃は仕事の忙しさからをも幸せを味わうことができるのだが、そのプラス思考も終わりに差しかかっている。ウエイトレスは仕事に現れず、様子を見に行かせた皿洗いはもう何時間も戻らない。コックのナディアは、台所の山のように積まれた皿を前にして辞める気満々だ。自分の給料が前にいたコックより少なかったと知ったうえ、忙しい夜はこき使われて憤慨している。ロヴィオスは飲み物を注文した客にせっせと出し、食事が遅れていることを謝りつつ、お得意様のうるさい水夫どもにすぐに何とかしますからと媚びへつらっている。もっと悪いことに、彼の考えは、「倉庫で吠えている迷い犬を何とかするために誰かを遣らなくては」という昨日のウエイトレスの言葉に何か手がかりがあるのではないかという推測に取りつかれている。
アレックとシーラ・ワンブリック ヒューマンの夫婦
アレックとシーラは静かな夕食を求めて酒場に来たが、目的は全くもって果たされていない。水夫どもはうるさい、食事は遅いときてアレックはイライラきており、シーラはアレックを落ち着かせるか、あるいは店を出ようとなだめている。ペイロア寺院での仕事で威張り散らされてストレスが溜まったこともあり、アレックと妻は寺院を不当に追い出されるのではないかと思っている。水夫どもにこの憤りをぶつけてやりたい。シーラはお腹に子供をできたことをアレックに教えてあげたいが、彼が怒っているうちはそうするつもりもない。
トム・リトル ヒューマンの逃亡者
トムは誰にも見つからないことを祈りつつ、フード付きの外套をまとって角の席に座っている。とあることで捕まって有罪となり、懲役として彼は近頃沼に道路を通す計画のため他の囚人と共に送られた。その道中、ワーウルフ共が木立の中で待ち伏せており、トムだけが生き延びることができた。トムはワーウルフのことを誰かに知らせたいが、牢屋に逆戻りしたくはない。そのうえ、彼はワーウルフに噛まれており、他人にそれを知られてしまえば、自分がライカンスロピーの呪いにかかったと思われると心配している。
筆者について
マット・サーネットはウィザーズ社所属の、ダンジョンズ&ドラゴンズとマジック・ザ・ギャザリングに関わっているライターであり、ゲームデザイナーでもある。最近クレジットがある作品としてはMonster Vault(未訳)、 Neverwinter Campaign Guide(未訳)、マジック・ザ・ギャザリング:ミラディンの傷痕がある。彼がモンスターや世界を造っていないときは、君の思いもよらないような、そして深く触れないほうが身のためな、酷いファンタジー映画に嵌っている。
NPCのストーリー 酒場の常連たち
マット・サーネット
誰にでもストーリーはある。ダンジョンズ&ドラゴンズのキャラクターすべてにも。
もし君がもっとロールプレイに凝ってみたかったり、セッションを活発にする方法を模索しているなら、ちょっとだけノンプレイヤー・キャラクターに時間を割いてみるのはどうだろうか。キャラクターの背景だけでも面白いものになるかもしれない。2行の文章やちょっとした注意書きがロールプレイの中身をとても充実させ、プレイヤーに酒場で英雄の隣に座った人たちとおしゃべりをするきっかけをくれる。
この記事は、英雄たちが次に酒場を訪れたときにいるキャラクターをまるまる一揃い書いている。そのまま使ってくれてもいいし、アイディアの思いつくまま設定してくれてもいい。すべてのキャラクターには物語があり、それが遭遇や冒険につながったりつながらなかったりする。もちろん、英雄たちが酒場の人間すべてと話をするというのはないだろうが、それぞれについて何かしらちょっとだけでも知っておくのはロールプレイの基礎になる。そして、巻き添え必至、酒場名物大喧嘩が勃発し、君はこのD&Dの伝統に独自の色を加えて活きたものにできる。
アール=ワインライト、ヒューマンのギャンブラー
アールは酒場のずっと奥側の席につき、景気をつけようと深酒をあおっているところだ。彼はケチな賭けのために、とても悪い連中に対し巨大な負債をこしらえた。負けの金額はとても大きいため、おそらくアールは支払えないだろうし、悪い連中もそれをわかっている。連中は、負け分を払う代わりに、地元のペイロア寺院から聖なる剣を盗んでくるよう指図した。期限は明日の正午なので、アールは今夜剣を盗むつもりでいる。・・・もう何杯か飲んだ後で。
サデュース・モーカス 恋にうなされたハーフエルフ
サデュースは角の席に座り、こぼれたエールの池ができたテーブルで何やら書いている。その指先は「ファラー」と名前の入った女性の絵と、大雑把な間取りの記された貴族の家とを交互に行き来する。サデュースは地元の貴族の娘、ファラー・ナイトハートにベタ惚れ真っ只中だ。ファラーの父は、近隣の町に住む貴族の子弟と婚姻を取り付け、両家のよしみを結んで二つの町の影響力を増すつもりでいる。サデュースは壁から家に押し入り、ファラーを救出して駆け落ちする計画を考えているところだが、それには守衛に番犬、そしておそらく魔法がかかっていると思われる彫像を何とかしなくてはならない。
ブリーナ・タインウィッスル ノームの元店主
ブリーナはブリキ屋兼修繕の店を同じ場所で長年続けてきたが、最近ガート・トーバーによって、競合するブリキ屋も扱う大きな何でも屋を出され、商売が傾いた。以前からブリーナはガートが自分の商売を干上がらせるつもりかと疑っていたが、店のある建物がガートの手に渡り、彼女に法外な賃料を吹っかけたときにそれは確信に変わった。わずか一日で、彼女は店をたたんでよそへと移る決心を固め、同情してくれた友人たちと飲んでいる。その時、ガートがそうと気づかず酒場の入口をくぐった。今やブリーナの視線は彼の後頭部に穴を開けんばかりに突き刺さり、エールのジョッキを持つ手は真っ白になっている。
ガート・トーバー ヒューマンの商人
ガート・トーバーは気さくで愛想のいい男だが、ことビジネスになると情け容赦がない。彼はちょうど道路建設のための用具と物資を売る契約をまとめてきたところで、妻子の待つ自宅で夕飯を取る前に、祝いがてら酒場で働いている情婦と飲もうと立ち寄ったところだ。外から見渡してもお目当ての彼女の姿が見えないため、エールを飲んでいるときに現れはしないかと、彼は酒場の中へとにじり寄っている。
アーチン・ホワイトハンマー ドワーフの職人
地元にある沼近くを通る道路を整備する計画があり、アーチンはその職人頭だ。道があれば、隊商が他の町まで移動にかかる時間が減り、結果として両方の町の取引が増える(もっとも、軍隊も移動しやすくなり、また他の町の権力者から逃げられるようになるわけではない)ことだろう。最近の大雨による「事故」がもとで計画は遅れてしまい、さらに数日前、作業員は沼へ向かう途中みな蒸発してしまった。アーチンはとあるエルフを魔女だと訴え、これで問題は片付くだろうと思っていたが、件のエルフの女性はすぐに解放されてしまった・・・明らかに無実だったのだ。アーチンはこの事態に、そして誰が真犯人なのかに悩まされて周りが見えなくなっており、身の回りで何が起ころうとしているのか全く注意を払っていない。
カーヴァー、ゲブ、ダーン 飲み仲間
この3羽ガラスは酒を飲んで騒いで、前の酒場をたたき出された後、どこかに落ち着こうとしているところだ。ゲブは、兄貴分でドワーフのダーンからエールではなくエルフ謹製ワインを欲しがっている。そのほうが「落ち着く」というのが言い分だ。ダーンは手の届くところにあるものなら喜んで飲みたがるが、“ベリージュースみたいな弱い酒”には手を出さない。ヒューマンのカーヴァーは不機嫌に押し黙って杯をあおっている。酔ってはっきりしない視界の向こうに、元彼女と最後に訪れた場所を思い返しているのだ。その彼女はハーフエルフのアーティストに乗り換え、彼との関係は終わった。
グランドバー・ロングウィスカー ドワーフの鉱夫
近頃グランドバーは、近隣にある銀山の採掘権を獲得した。だが問題もある。原始的なゴブリンの一族が、彼の銀山ですでに掘っているのだ。地元の住民からは、ゴブリンたちが鉱山で掘り出した銀を使った矢や槍を使うことから、「光り物族」として認知されている。グランドバーの契約では、ゴブリンどもと取引するか、鉱山から追い払うかのいずれかを自分でしなくてはならないと明示されている。グランドバーは「不潔な野蛮人」と一緒に働くことなど想像すらできないため、傭兵に頼むつもりでいる。そんなことをした経験はないので、彼は相場がどれほどのものか知っておくため、傭兵や商人と話をしたがる。
水夫と盗賊
この一帯にいるヒューマンとハーフリングの水夫たちが、もっと食い物と飲み物を持ってこい、としょっちゅう叫びながら、中央のテーブルで騒がしい夕食をとっている。そのなかの3人、片目のダナド、外れ結びのアンデレ、義足のグレッグは、街にいる間にやるつもりの、ちょっとした盗みの計画を立てているところだ。三人は他の連中が感づく前におさらばするつもりでいるが、必要とあれば、この騒がしくとても酔っぱらったお仲間どもをアリバイとして使うつもりでもある。彼らは金がたんまり、あるいは高価なアイテムのありそうな寺院や貴族の屋敷を探りたいところだが、どこに狙いを絞るかという話がまとまらず、時間だけが無駄に流れている。
ブランディス、ヒューマンの処刑人兼拷問吏
ブランディスは地下牢で処刑人兼拷問吏として働いている。誰もができるような仕事ではないが、自分が罰しているのは咎人だけだと考えることで、苛む罪の意識を薄めようとしている。だが彼にとって不運なことに、自分が拷問した何者かの無実が証明され、釈放されてしまったのだ。そして今、英雄たちが酒場ですごしているその時、誰かが入ってきて、ブランディスの近くに座った。ブランディスは仕事をしているときは仮面をかぶっており、城の外の人間は自分が拷問吏だということを知らないとはいえ、無実のエルフは話し声で自分のことを分かり、復讐をしはしないかと怖がっている。ブランディスは口を利くことなく食事を終え、この場を立ち去ってしまいたい。
ダラ エルフの賢人
ダラは沼の近くに住んでおり、訪れる者に薬草の治療と助言をして助けている。数日前、彼女は沼地を通る道路建設の妨害した容疑をかけられ、地元の領主の兵士に地下牢まで連行され、そこで拷問された。現場の「事故」は魔法によって引き起こされた、という嫌疑の証拠が彼女に突き付けられた。ダラは道を造ることこそが沼地に対する侵略であるとやりかえし、ダラの友人や後援者が彼女を助け、一分の隙もないアリバイを主張し、彼女には魔法を使える能力がないことを請け合った結果、とうとう彼女は解放された。いま、ダラは酒場に来て、誰が彼女を告発したのか、この問題の裏にどういう真実があるのか情報を集められればと思っている。酒場の中に入って席に座り、調べ物を始めるつもりだ。
バラサー ドラゴンボーンのウィザード見習い
バラサーはカーテンで仕切られた席に座り、酒場の騒がしい客どもを気にしないように、師匠から「お借りした」地図に集中しようと頑張っている。マップの記述はエルフ語で、話すことができるなら簡単に分かる程度の古文体なのだが、バラサーの理解ではとても及第点とは言えない。地図の示す先に高価で強力なマジック・アイテムで詰まった財宝が隠されている、と彼は信じているため、他の誰にも地図を見せようとはしない。地図にはマジック・アイテムの危険性と、その場所は不心得者に対する備えがされているという注意書きがあるのだが・・・
エリザ・ターンストーン ヒューマンの口やかましくて喧嘩っ早い女
エリザはいつも通り夕飯遅刻常習犯の夫を探している。がみがみうるさく癇癪持ちな気性とあいまって、エリザはまるで狩りにでも来たかのように見える。彼女は部屋の中央に仁王立ちし、夫に隠れてないで出てこいと叫んでいる。この剣幕を笑える強者がいたなら、たちどころにお前が私の亭主を逃がしたのかと食って掛かるだろう。
ロヴィオスとナディア ヒューマンの酒場の主人とコック
この陽気な男は、常日頃は仕事の忙しさからをも幸せを味わうことができるのだが、そのプラス思考も終わりに差しかかっている。ウエイトレスは仕事に現れず、様子を見に行かせた皿洗いはもう何時間も戻らない。コックのナディアは、台所の山のように積まれた皿を前にして辞める気満々だ。自分の給料が前にいたコックより少なかったと知ったうえ、忙しい夜はこき使われて憤慨している。ロヴィオスは飲み物を注文した客にせっせと出し、食事が遅れていることを謝りつつ、お得意様のうるさい水夫どもにすぐに何とかしますからと媚びへつらっている。もっと悪いことに、彼の考えは、「倉庫で吠えている迷い犬を何とかするために誰かを遣らなくては」という昨日のウエイトレスの言葉に何か手がかりがあるのではないかという推測に取りつかれている。
アレックとシーラ・ワンブリック ヒューマンの夫婦
アレックとシーラは静かな夕食を求めて酒場に来たが、目的は全くもって果たされていない。水夫どもはうるさい、食事は遅いときてアレックはイライラきており、シーラはアレックを落ち着かせるか、あるいは店を出ようとなだめている。ペイロア寺院での仕事で威張り散らされてストレスが溜まったこともあり、アレックと妻は寺院を不当に追い出されるのではないかと思っている。水夫どもにこの憤りをぶつけてやりたい。シーラはお腹に子供をできたことをアレックに教えてあげたいが、彼が怒っているうちはそうするつもりもない。
トム・リトル ヒューマンの逃亡者
トムは誰にも見つからないことを祈りつつ、フード付きの外套をまとって角の席に座っている。とあることで捕まって有罪となり、懲役として彼は近頃沼に道路を通す計画のため他の囚人と共に送られた。その道中、ワーウルフ共が木立の中で待ち伏せており、トムだけが生き延びることができた。トムはワーウルフのことを誰かに知らせたいが、牢屋に逆戻りしたくはない。そのうえ、彼はワーウルフに噛まれており、他人にそれを知られてしまえば、自分がライカンスロピーの呪いにかかったと思われると心配している。
筆者について
マット・サーネットはウィザーズ社所属の、ダンジョンズ&ドラゴンズとマジック・ザ・ギャザリングに関わっているライターであり、ゲームデザイナーでもある。最近クレジットがある作品としてはMonster Vault(未訳)、 Neverwinter Campaign Guide(未訳)、マジック・ザ・ギャザリング:ミラディンの傷痕がある。彼がモンスターや世界を造っていないときは、君の思いもよらないような、そして深く触れないほうが身のためな、酷いファンタジー映画に嵌っている。
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