http://www.wizards.com/DnD/Article.aspx?x=dnd/dra/201108history

2012/12/3 ヴィスターニ→ヴィスタニ に表記を修正

ヒストリー・チェック:カースとヴェクナ
ケン・ハート

イントロダクション

 ダンジョンズ&ドラゴンズにまつわる豊富な歴史を探る、この新シリーズにようこそ。「ヒストリー・チェック」の各記事で、ゲームの象徴的な英雄、悪役、組織、出来事、D&Dの複雑に絡む歴史を紐解いていこうと思う。本文のほか、随所にコラムを挿入して技能判定に成功した冒険者たちがどのようなことを知っているか書いておく。
 それでは、秘密の神ヴェクナと破壊者カースの確執の起源から始めよう。

招かれざる客

「これはこれは!予想通りの招かれざるお客さんだ。さっきは踊りを楽しんでいただけたようで何よりだね。踊った後で私を探しに来た男はあんたが最初ってわけじゃぁない。だがここに来たのは、飢えててヤりたいからってわけじゃないんだろう?知りたいことがあって私を探した。そうしなきゃ痛い目を見る、いや、もっと酷いことになるからね。目下一番の関心事は、キャラバンを待ち伏せしている鬼の妖術師のことだろう。長はカードを使ってお前さんが本当のことを言っているか確かめている。嘘をついたならヴィスタニにしばらくいてもらうよ。兄弟分のセルゲイが新しいナイフ投げの的が欲しいってさ。」

「さあ、取引の時間だよ。その通り、私は踊り子なんかじゃあない。名はメノドーラ・ザロヴァン。一族は古代史に関する知識の集積、とくに魔法学関連を誇りにしている。私たちは数千もの神話に隠された真実を知っているのさ。たまに取るに足らん馬鹿どもや阿呆たちに知恵をつけてやり、その対価をいただく。ジョルジョ、今はあんたが知りたくてたまらないことを教えてやるよ。そして後々やって欲しいことを言いに行くから、それをやってくれれりゃいい。」

(訳注1:ヴィスタニ外の者を指す)

「今宵は汚い行いと、ド汚い裏切りのお話をしてやるよ。秘密の神が、どのようにして信頼していた戦士と自分自身の馬鹿らしいプライドに裏切られて不具にされたかってね。破壊者カースと、不具の神ヴェクナの物語さ。」

ザロヴァン族

 この「ヒストリー・チェック」の語り手は、ヴィスタニにいるザロヴァン族の一員だ。ザロヴァン族は、シャドウフェルとほかの次元界を目的もなくジプシーのように行き来しているように見えるが、特に不可解な歴史、奇怪な物語、難解な出来事に興味を持ち収集に勤しんでいる。贈り物の対価、地元の伝説に敬意を表して、単なるきまぐれ、黒い陰謀など、さまざまな動機から、ザロヴァン族は自分たちの情報をよそ者に流すかもしれない。
 ヴィスタニに関しては、Player’s Option: Heroes of Shadow™、The Shadowfell: Gloomwrought and Beyond™、Dragon誌380号の「ヴィスタニ」(すべて未訳)に記載されている。

欺きの元祖:ヴェクナとアサーラック

「約二千年もの昔にフラネスと呼ばれた大陸があり、その名をバードに詠われ、クレリックに忌み嫌われる、ヴェクナというリッチがいた。彼はどのようにしてリッチになり、なぜフラネスを我が物にせんと欲したか?そしてお前さんの頭に疑問が浮かぶだろう。『メノドーラさん、じゃあなぜ今はシャドウフェルにいるんですか?ってね。』ヴェクナのカルトでは、ヴェクナはその力を妬まれて他の神に呪いをかけられた、って教えてるね。狂人用の病院に押し込まれた、とある修道士の絶え間ないお喋りによると、ヴェクナは自身の死に臨む際、永遠の責め苦に苛まれる次元にある、灰色の砂上に建つ城に己を封じたそうだ。」

「面白いことに、ほとんどの話において、ヴェクナはこの上なく優秀なウィザードであったが、愛する母親が死んでからというもの、死を超越するということに取りつかれたようだ、という点で一致してるね。ヴェクナは死霊術の実験体を得るべくフラネスの村をいくつも征服した。数百にも上る失敗の後、ヴェクナはとうとう次元から精気を吸い出して生なき体を操るべく与え、リッチとしての不死性を得る儀式を編み出したんだ。ぞっとしないねぇ、母親恋しさのため生贄にされ、魂を汚された連中のことを考えるとさ。」

「多くの者を悩ませる謎がある。ヴェクナはなぜ秘密にこだわるのか?それはヴェクナが行った大規模な侵略のうち、最初期のやつにさかのぼる。ヴェクナは配下の将軍のうち、アサーラック(訳注2)という名の、ハーフデーモンの魔術師にとある街の攻略を命じた。そいつはかつてペイロアのクレリックに滅ぼされそうになっていたのを、ヴェクナが助けてやったのさ。当時リッチだったヴェクナは、恩賞として、自らの本拠地であった腐敗の塔の上層部への立ち入りを許した。」

(訳注2:アサーラックはOpen Grave: Secrets of the Undead(未訳) 200ページに記述があります。)

「そう、アサーラックという名前に憶えがあるかもしれないね。さてジョルジョ、ここで質問だ。狡猾で自分自身も強力なリッチになってやろうという地獄生まれさんが、「恐怖の墓」と呼ばれる、それはそれは危険なところにいて、単なる魔術師として大人しく仕えていると思うかい?アサーラックが危うく殺されかけられたのも、ヴェクナに助けられたのもすべて自身の仕組んだことだった。強力な主に取り入って地位を得て、そいつが持ってるいわくつきの強力な秘密を盗むためにね。」

「それからしばらく、アサーラックの計画はうまく進んでいた。数年後にヴェクナがその裏切りに気づいたとき、アサーラックはヴィスタニからの入れ知恵でばれたのを知らされ、粛清から逃げおおせたのさ。」

「常日頃から恐ろしいヴェクナの怒りだが、このときは桁が違った。死すら超越したほどの魔術師が、最も大事に守ってきた知識をばらされ、あまつさえ盗人には罰も与えられず逃げられた。それからなのさ、ヴェクナが神がかり的な情熱をかけ、自分の持つあらゆる秘密を守ると誓ったのは。ヴェクナの力が増すにつれ、その秘密に対する姿勢が崇拝する人々にとって文字通りの宗教になる。その狂信者どもの中に、無慈悲で残酷な戦士がいた。その名はカース。」

ヒストリー・チェック
 難易度25の<歴史>または<宗教>判定に成功したなら、アサーラックの関与以外のことを知っている。30以上ではアサーラックとの絡みまでわかる。これとは別に、難易度22の<宗教>あるいは<魔法学>判定の成功で、アサーラックは正確にはデミリッチ的な存在であり、信奉者たちがアサーラックの罠まみれの墳墓の上に、魔法と宗教を研究する「荒廃の学舎」を作っていることを知っている。

カース:ヴェクナの血塗れた右手

「お前さんは、これまで何度潰しても死なない蚊と部屋をご一緒したことはないかい?その蚊を6フィート半の大きさにして、鎧で覆われ、マムシの狡猾さと神の力を持っている。裏切り者、カースはそんな感じさ。」

「アサーラックがヴェクナへの裏切りに勤しんでいた頃、カースはヴェクナに仕える、血に酔い己の力を試せる敵に飢えたヒューマンのパラディンだった。前は別の死の神に忠誠を誓っていたが、すぐに単なる死には飽き足らなくなった。死に至る過程が暴力的であればあるほどそれを楽しめる。カースは終わりなき戦いの中で血に酔っていたかった。ヴェクナの野望に加担したのは、己の望みを叶えるためでもあったわけさね。そしてそれは期待以上のものだった。」

「ヴェクナが自らの目標に向けて邁進するなかで、カースの戦いに対する情熱や剣技、その無謀さに好奇心をそそられた。また、フェアな戦いを主張しておきながら、容赦なく敵を切り捨てるその偽善も大いに楽しんだ。カースは必要なら邪魔者を排除することもためらわず、ヴェクナの信者中での序列を上げていき、とうとう「その名を囁かれしもの」のなかでも最上位の副官に登りつめた。カースはヴェクナ生誕の地を征服した際、「血塗れの手」二つ名をヴェクナより授けられたんだが、これは戦いの後、市民の生命の保証についてたっぷり嘆願しておかなかった愚かな支配者への見せしめ、という理由だけで、適当に選んだ家の住人皆を拷問して八つ裂きにしたのが由来さ。」

「勝った後の鮮血の様から、ヴェクナはカースを、血まみれになっている限りは頼れる駒だと確信したようだ。それでもアサーラックの裏切りのことは忘れちゃいない。ただアサーラックと違うのは、カースはヴェクナの持つ秘術の知識について全く興味がなかった。求めているのは流血、鋼、戦いで敵を支配すること。ヴェクナは忠誠心という点でカースのことを信用していたようだね。」

「それから数十年の間、ヴェクナとカースは腐敗の塔でよく相談をしていた。次の侵略の目標や、近頃見つかったアーティファクトなんかが話題だったね。また、ヴェクナはカースに戦術を教えていた。カースは個人として十分に強かったが、リッチの力に挑もうとする強力な敵を退けるため、副官としての働きも必要だからね。」

「信頼のおける武器をできるだけ長く使おうと、ヴェクナは死霊術を用いてカースの寿命を延ばしていた。カースの定命の肉体が、いよいよヴェクナの呪文をもってしても保てないところまでくると、ヴェクナはカースに牙を生やした銀の仮面をあてがい、不死のエネルギーを込めた。銀の仮面と死霊の抱擁を纏い、カースはヴァンパイアという闇の贈り物を己の意志で授かったんだ。」

ヒストリー・チェック
 難易度25の<歴史>または<宗教>に成功したキャラクターは、カースがヴェクナを裏切った強力なヴァンパイアであるということのみを知っている。30でヴェクナとの関係、35でヴァンパイアとなった経緯が分かる。

裏切りの本当の理由

「ずいぶんと訝しげだねぇ?信じられないってかい。きっとお前さんが聞いているのは、カースがヴァンパイアになったのは、かの有名な裏切りの結果として、どんな魂でも凍りつくという灰に覆われた次元にある、ヴェクナのカヴィティウス神殿に閉じ込められた後だっていう説だろうね。それはヴェクナの信徒どもがモーゼレンの書を引用したのさ。連中は、ご主人様が信用した相手に二度までもこっぴどく裏切られたのを認めたくないんだろうね。だけど、最も信頼していた戦士を「下級の」アンデッドにしてやったのはヴェクナ本人であり、カースの血の渇きを満たしてさえいれば、不死の秘密になんか興味を持たないだろうと思っていた、と信じるのがそんなに難しいのかねぇ?」

「ヴェクナの帝国が膨らんでいくにつれ、その名を囁かれしものは、己の奴隷どもと、試したい実験すべてには目が行き届かなくなることがわかった。ヴェクナは力を分かち合う他の誰かが必要だったわけで、その役にカースが選ばれたのは必然だったろうね。だがヴェクナには計画の実現と裏切りのジレンマに陥った。アサーラックの背信からすでに百年がたっていたが、屈辱の記憶は消えていなかったようだね。秘密を司る主人は、カースが持ちうるどんな野望も見逃すまいと考えた。そこでカースへもう一つ贈り物をくれてやることにしたのさ。堕ちた星の凍りつくような核で鍛え上げたショート・ソードだ。最後の魔法を籠める際、自身の意識の欠片から作った影でこの闇の剣を念入りに覆った。それ以来、カースがこの剣を身に着けている限り、ヴェクナはその行動、ときには考えていることさえ把握できるようになったのさ。」

「カースはヴェクナからの賜り物に驚き、飛び上がらんばかりに喜んだ。身は吸血鬼と化していても、己に課した武勇の掟では、主人の手によって剣を贈られるのは名誉の中の名誉だそうだ。ドッペルゲンガーの皮で作った鞘から引き抜いた瞬間にこの剣の力を感じ取ったカースは、自分が何を仕掛けられたのかもわからないまま「ソード・オヴ・カース」とお粗末な命名をしたものさ。」

「ヴェクナの自信は頂点に達した。カースの剣・呪文・爪によって支配地はどんどん広がっていく。自分の最強の下僕は従順、少なくとも己の支配下にある。もう自分が神への道を進むのに何の妨害もないってね。」

「ククッ、そんな過信は脆くも崩れ去るのが相場さ。現にヴェクナはそうなった。カースを見張る試みは巧妙に過ぎた。ソード・オヴ・カースにはヴェクナの意識だけでなく、強欲、秘密への妄執、知識への渇望まで籠められていたんだ。剣の持つ知性はたちどころにヴェクナ自身から逃れ、ヴェクナにはカースの忠義に疑いなしと報告しつつ、カースには裏切りをそそのかしていたんだよ。皮肉な話だと思わないかい?」

「剣が創造主を裏切ったのは、秘密の主は世界に一人だけでいい、そうなるためにはヴェクナを倒すしかないと考えたからさ。おそらく剣にはそれだけの力などなかったろう。だが、疑いもしない使い手を染めるには十分すぎるくらいだった。年が経つにつれ、その力は徐々にカースの意識に影響するようになり、ヴェクナは力を独り占めしたがっていると信じ込ませた。そして、ヴェクナが剣を通じて自分の意識を読み取らせていることをそれとなく気づかせたのさ。」

「その事実はカースの確固たる忠誠心を粉砕した。カースはただちに報復をくれてやろうと思ったが、剣が絶好の時期が訪れるまで待つよう止めた。カースにはもちろん剣の本当の目的などわからなかったし、忠誠を捧げているのは自分に対してだと信じ込んでいた。剣がカースに力を貸すのは、ヴェクナを滅ぼそうとする限りなのにね。」

ヒストリー・チェック
 難易度30の<歴史>または<宗教>判定に成功したキャラクターは、基本的な事実関係を把握している。35以上であれば、突き詰めるとソード・オヴ・カースこそがカースの裏切りの元凶であったことを知っている。

不具の神と裏切り者

「アーティファクトや儀式、その恐るべき才能、そして数千もの犠牲者から得た精気によって、ついにヴェクナは神位を得る儀式を行えるだけの力を持つに至った。ソード・オヴ・カースはそれを察知し、持ち主にまさにその時と知らせた。儀式只中のヴェクナを倒し、帝国をその手におさめ自らこそが神位を得るべし、とね。」

「ヴェクナが腐敗の塔の最上階で星々に向かって呪文を詠唱していたとき、カースが塔へと突入した。護衛は即座にカースの謀反を見てとったものの、その怒りの咆哮が、剣の囁きがもたらす狂気じみたものからであるのはわからなかった。連中は刈取りの小麦さながらに切り伏せられたのさ。護衛が倒され、はじめてヴェクナはカースの存在に気が付いた。また、はじめてヴェクナは剣が自分を欺いていたこと、忠義者の忠義がねじ曲がり、もはや手遅れなのを悟った。儀式を中断しようとしたヴェクナだったが、いったん解き放った神のごとき力は止められない。まさにそのとき、カースは腐敗の塔の最上部に達した。牙と剣から血を滴らせてね。ヴェクナがそうしたときのために頼りにして、また育てたのはまさにカースの力だったのにね。」

「そこからは文字通り神話の戦いだったよ!ヴェクナの信者どもは、主が万全の状態であったなら、ただのヴァンパイアなど即座に倒していたろうと言う。まあそうかもしれないね。だが、儀式中の奇襲であったこと、剣が想像主の攻撃を予測して教えたこと、カースの並外れた力と不屈の意志もあって、これがまた勝負になったのさ。」

「カースは魔法陣の真ん中にヴェクナを追いつめた。両者に混沌で溢れんばかりの、轟く雷鳴のエネルギーが浴びせられる。ヴェクナはカースに向けて稲妻を放とうとしたが、呪文を詠唱しきる前にカースが突進し、ヴェクナの左手を切り落とした。」

「カースは、ヴェクナの呪文をくらって苦しみながらも攻撃の手を緩めなかった。「これでもう覗き見などできまい!」と叫び、剣をヴェクナの左目に突き刺して抉り出す。カースの剣は勝利を確信し、ヴェクナに向かって光輝のエネルギーの波動を放ったんだ。」

「剣のやったことは、油田に火を放つようなものだった。爆発はもうすさまじく、腐敗の塔は吹き飛ばされ、遠く何マイルも離れていても耳をつんざかんばかりだった。魔法の嵐の中心にいたヴェクナとカースは、アビスから噴き出したエネルギーに襲われ、他の次元界へと逃れざるを得なかった。瓦礫と化した塔から見つかったものはと言えば、斬られたヴェクナの手と抉られた眼にカースの剣。あとは爆発に巻き込まれた不運な連中の亡骸ばかりさ。」

憎悪は死せず

「戦いの詳細をどうやって知ったかって?確かに何があってどう言ったかなんて、ヴェクナとカース当人にしか知らないはずさ。この私が、さっきお前さんがお楽しみだったダンスで身をくねらせたくらい真実を曲げたとでも思っているのかい?それともヴィスタニの情報網やここまでかと恐れ入ってくれたかな?」

「大事なのはその後どうなったかだ。戦いでヴェクナの肉体は滅されたが、その意志は生きていた。何世紀もの間次元界を漂いながら、新しく作られた自らのカルトの崇拝者から少しずつエネルギーをもらい続けた。それはそれは長い時間だった。だがとうとうヴェクナは、アストラル海の中でも最も堕ちたデミゴッドとして認められるようになったのさ。」

「謀反を企てた副官の方は、そこまで大変なことにはならなかった。得る物もなかったけどね。カースはヴェクナに比べれば、爆発から傷もなく生き延びた。持っていた剣が創造主の知識を利用し、カヴィティウス神殿を抜け、かねてからヴェクナが避難用に造っていたアストラル海の城へと案内したためさ。だがほどなく剣はカースを見捨てた。しくじったヴァンパイアに嫌気がさしたのかもしれないし、もうこいつといても面白いことはないと思ったのかもしれない。伝説によれば、闇の剣は世界のあちこちに顔を出しては、愚かで力に飢えた者に幻の栄光を見せて誘っているらしい。そしてカース自身なんだが・・・神位を得るには至らなかったが、それでもずいぶんと力を蓄えた。グルームロート(訳注2)の交易商人曰く、カースは今シャドウフェルのどこかにあるヴァンパイアの王国を支配しているそうだ。秘密の情報を取引している私でも、噂の真偽を調べるのは御免こうむるね。」

(訳注3:次元界の書57ページ参照)

「今ヴェクナはシャドウフェルにいるっていう話もある。ギザギザ峠の死の谷の近く、カヴィティウス神殿が注意深く模された影の準次元界において、不具の神に挑んだ強力な冒険者のことを私の親戚が話してくれた。話によると、ヴェクナはより強力な存在によって、さながらぜんまい仕掛けのオルゴールのごとく、娯楽のために狭い牢獄に幽閉されていた。あるいはカースもまた同じ状態になったのかもしれない。面白い話だね。この話に疑いの余地はないよ。他の誰でもないヴィスタニの人間が、嘘を話す必要もない冒険者の生き残りから直接聞いたことだからね。何はともあれ、ヴェクナはその牢獄を首尾よく抜け出し、カースもまたその機会を窺っている。ことによると、カースの牢獄っていうのは、さっき話したシャドウフェルの王国のことかもしれないね?」

「カースがいたころはカヴィティウス神殿に籠ることを好んでいたヴェクナだったが、いまや広く遠くまで赴くようになった。数多の世界を旅するのは、秘密を蓄えていくためだと言われている。ひょっとしたら最初のヴィスタニはヴェクナなのかもね?おいおい、そんなに怒りなさんな。冗談だよ、冗談。」

「ヴェクナのカルトは今なお失われた目と斬られた手を探し求めている。お前さんの歴史に対する興味を見るに、どこまで知ってるんだかねぇ。カースにも信者やエージェントがいる。二つの集団が出会うことは稀だけど、そうなったらもう凄惨な流血沙汰だろうね。」

「最初に見えた一瞬の戦い以来、カースとヴェクナが戦ったことがあるかどうかは知らないよ。互いの憎悪、両者の力の強さを考えるに、そんな激突を間近で見て、生き延びて様子を語れる人間なんていないだろうね。」

「ちょいと失礼するよ。なんだい、ルシア?」

「吉報だよ。お前さんは無事に帰れる。長があんたの動機は評価されるべきで、知識に対する情熱は誠実だそうだ。彼女が言うにはあんたはメンバーの一人なんだろ?あの・・・おっと、これは口に出されちゃ困るんだったね?じゃあ、これは秘密だ!ザロヴァンが秘密好きなのを話したろう?まあまあ、いいワインがあるんだよ・・・」

ヒストリー・チェック
難易度25の<歴史>または<宗教>判定に成功したなら、キャラクターはカースとヴェクナの争い、その末の惨事、さらに両者がなお生きていることを知っている。難易度30では、キャラクターは穢れたアーティファクトとしてアイ・アンド・ハンド・オブ・ヴェクナ、そしてソード・オヴ・カースの存在とともに、シルヴァー・マスク・オブ・カースについてもわかっている。難易度35までいけば、メノドーラが語った、カースとヴェクナの最近の動向について把握している。

シナリオフック

 以下のシナリオフックは、カースとヴェクナをキャンペーンに絡ませたいマスター向けのものだ。このほかにカースやヴェクナ、そして両者にまつわるアーティファクトについて参考になりそうなものとして、Open Grave: Secrets of the Undead™(未訳)とドラゴン誌395号「チャネル・ディヴィニティ:ヴェクナ」(訳注4)がある。

(訳注4 http://dendrobium.diarynote.jp/201102071635144939/ 参照)

◆カースに仕える練達の幻術師がシルヴァー・マスク・オブ・カース(Silver Mask of Kas  Open Grave: Secrets of the Undead(未訳)出典)を発見した。この世界におけるカースの影響力を増すため、幻術で真の性質を隠しつつ、垂涎のマジック・アイテムに見せかける。そしてパーティーの誰か(伝説級)あるいはその知り合いで強力な人物(英雄級)の手に入るよう仕組んだ・・・。

◆彼方からの領域より厄災が迫る。とても手に負えそうにないパーティーの前に意外な味方が現れた。なんとヴェクナの信徒たちが、彼方からの領域がもたらす世界の荒廃を防ごうとしていたのだ。(伝説級)

◆噂ではソード・オヴ・カースがレイザー・ハイドラ(モンスター・マニュアル2)の巣、あるいは強力なレイス(Open Grave: Secrets of the UndeadのKravenghast)または同種のクリーチャーの所にあるらしい。冒険者たちはとある教団の一党に手にされる前に見つけなければ(伝説級)、あるいは件のクリーチャーを避けつつ剣を永遠に葬り去らねばならない(英雄級)。

◆ある地方の支配者が、普段ではありえないようなほど精彩を欠いている。一方で、高潔として知られ、近頃振る舞いが急に野心的でやり方を選ばなくなった貴族が台頭しつつある。原因:貴族はハンド・オヴ・ヴェクナを発見し、その闇の力に屈した。(伝説級、アスペクト・オヴ・ヴェクナを使うなら神話級)、もしくは支配者はヴェクナのカルトによって魔法的に支配されており、そのカルトの狙いは貴族の子女である(英雄級)。

著者について

 ケン・ハートはGoodman Games社のDungeon Crawl ClassicsとEtherscope(共に未訳)の開発に携わった。D&Dでの最近の記事はドラゴン誌#397の“Faith and Heresy”と同#398より“Strange Gods”がある。学校に上がる前の娘にゼラチナス・キューブについて教えているときを除いて、彼は自身のサイト(ken-of-ghastria.livejournal.com.)でゲーム、ポップカルチャー、サバイバルについてブログを書いている。

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