5/28追記 「セルダリン」と「セルダライン」の表記が混ざってました。
4版では「セルダライン」(次元界の書107ページ)なので、こちらで統一します。

2012/12/3 ヴィスターニ→ヴィスタニ に表記を修正

http://www.wizards.com/dnd/downloads/dragon/408/408_HC_Corellon_and_Gruumsh.pdf

ヒストリー・チェック:コアロンとグルームシュ
ジェフ・ラッサーラ

イントロダクション
 ダンジョンズ&ドラゴンズにまつわる豊富な歴史を探るシリーズ、最新号をお届けしよう。「ヒストリー・チェック」の各記事で、ゲームの象徴的な英雄、悪役、組織、出来事、D&Dの複雑に絡む歴史を取り上げて、よく知られたこと、そして新しいことに触れていく。本文およびコラムは、技能判定が成功すると冒険者たちが知っているかもしれないことについて書かれている。
今回は神話の戦いの一つに焦点を当てる。エルフの神コアロンと、オークの神グルームシュの激突だ。

エルフの谷
「友よ、荷を降ろすといい、今日はもうこれ以上進めないよ。どんなに急いでも日没までは駄目さ。木立の向こうにある橋が見えるかい?あれはエルフ谷の聖地の境界の印なんだ。そこに住む連中は、自らの領域を旅人が通るのを月夜の時だけに限っている。どうやってそれを知ったかって?あえて近づこうものなら、細い灰色の矛が地面に突き刺さる・・・そして樹上から命知らずの面々がお出迎え。それがエルフという連中の務めなのさ。まだ納得していないかな?ジョルジョ、信じなよ、さもないとお前さんは橋の向こうに辿り着く前に弓矢でハリネズミになっちまう。だから、少しお休み。お天道様がいる時は私らじゃない、連中の時間なんだ。動くのは慈悲深いコアロンのお許しを得て、セイハニーンの光が道を照らしてからさ。」

「お前さんを私の所に寄越したのはメノドーラ?それともマローブ?私は丸い耳や白目のどちらも持っていないけれど、彼らが私の仲間であることには変わらない。私の名はベンジャール、つまりエラドリンの生まれだよ。私のように、フェイの中にも他の種族より強い血の繋がりを断ち、他の者たちとの絆に変えるものもいる。私は誇りを持って自らをヴィスタニの一員であると言えるし、自分を追放した人たちのことを許せる。もう親類でもなんでもないけどね。もうわかったと思うけど、数十年前まではエルフ谷に架かった橋の向こう側が私の故郷だったんだ。エルフとエラドリンはその守護者による涙と血で彩られたコインの裏表みたいなものさ。物質界とフェイワイルドにまたがって住んでいる種族のね。」

「なぜ追い出されたのかって?失礼なことを聞くもんだね、ジョルジョ。でも今日はちょいと懐かしい感じで、古い話でもしたい気分さ。」

「私の追放はヴィスタニとは関係ないよ。エルフの絆が切れたことがヴィスタニへと向かうきっかけだったんだ。真実はもっと単純。私はオークの命を助けて、彼女とお友達になったのさ。それはそんなに許されざる罪なのかねぇ?あまねく世界にいる子供たちの守護者、セルダラインの第一人者、アルヴァンドールの宝冠、フェイワイルドの父であるコアロンにとってなら、確かに許せないんだろうね。こっちに来てお座り、これからなぜそうなのか語ってあげるから。」

「ヴィスタニはこの伝承について、ありとあらゆる異聞を集めたけれど、自分たちのものほど闇や噂から真実を引き抜いたものはなかった。これからあんたが聞くことこそがコアロンと宿敵「一つ目」グルームシュに関して最も真実に近いのさ。破壊の神はどんなときもその恐ろしい二つ名で呼ばれるわけじゃないんだよ?これはそういう話さ。それじゃあ始めようか。私からの直伝だよ。エラドリンとしては、私はかなりオークが好きな方なのさ。」

ザロヴァン族
 この「ヒストリー・チェック」の語り手はヴィスタニの一員であるザロヴァン族であり、シャドウフェルとほかの次元界をジプシーのように行き来する謎めいた連中だ。ザロヴァン族は過去と関連する未来の出来事に重きを置いており、寛容の精神、暗い陰謀、謎めいた好意から、ジョルジョ(ヴィスタニ外の者)に対して知恵を授けることがあるかもしれない。ヴィスタニに関しては、Player’s Option: Heroes of Shadow、The Shadowfell: Gloomwrought and Beyond、Dragon誌380号の「ヴィスタニ」(すべて未訳)に記載されている。

暁の戦の由来
「私が歩いてきたところすべてで、エルフはオークを罵り、関わり合いにならないよう避ける。オークはオークでエルフを片っ端から殺そうとする。二つの種族の間で血を見ないところなんてほとんどないね。これは単なる確執や文化の衝突なんかじゃない、世界そのものに古く、そして深く根付いている敵意なのさ・・・神の始めたね。かたやオークの激怒はほとばしるエネルギーさながら。こなたエルフがみな心に持つは原始的な憤怒の衝動。お前さんならそのお仕事でどちらも見ていることだろうね。」

「なんだけど、私の話の切り口はちょいと異端なところからさ。大っぴらにできないけどね。これはヴェクナのローアマスターや、神学者の中でもとりわけ勇気のある者が言いふらしているのさ。その連中曰く、あるところに双子の兄弟がいた。その双子の始祖神は、自らを犠牲にして生を授けたそうだ。片方の息子には類稀なる知性、光、美を、もう一方の息子には蛮勇、闇、混沌を授けた。その始祖神は、二人の息子によってプライモーディアルとの戦いを逆転できると信じていたようだね。魔法の力を与えられた兄のコアロンは、自らの持つ力を定命の世界に伝える必要があるということを悟っていた。また、知性や美という点で自分に劣っているグルームシュに対して深い同情を感じ、彼に神的な閃きを授けた。予言の神、アイウーンの持つそれに比べれば、ちょっとした先読み程度でしかないけどね。」

「この説が真実か確かめる術はないよ。双子の神について、とんがり耳や牙付きの連中に聞いて回るのはお利口さんとは言えない。だけどコアロンとグルームシュの間にいつも猛烈な敵愾心があったことは誰もが認めているね。二人の神は鏡の表裏さ。コアロンは優美と公正、グルームシュは粗暴と無慈悲。両者は再三再四やりあったよ、抜け目なくね。だけど、この時点では弓が張り詰めたり、斧が血に染まったりする永遠の憎悪とまでは至っていなかったんだ。」

「そして暁の戦が始まった。伝説によれば、創造のプライモーディアルが世界とそれを支配する神を破壊しようとしたそうだね。グルームシュが戦いに加わるころには、コアロンはすでにフェイワイルドに追いやられていた。コアロンは戦の終盤までセルダラインに引きこもって休んだので、フェイの神格としての神々の軍勢は、月の弓セイハニーンと、織りなすものロルスの二柱の女神が束ねることになった。セルダラインだけはアストラル海全体で荒れ狂った戦争の爪痕から逃れたため、世界全体が失っており、取り戻そうとしていた芸術や魔法、音楽を創造していたんだ。それこそがコアロン誕生以来の悲願だった、エルフという種の始まりでもある。広漠かつ誰も手を触れたことのないフェイワイルドの美の中で、その守護者が素晴らしさ、喜び、そして悲しみから流した涙が形となってエラドリン、エルフ、そしてダークエルフを創ったのさ。」

「悲しきかな、ロルスがセルダラインから離れ、コアロンは決して癒せぬ心の傷を負った。この複雑な悲劇の物語はまた機会にしておくよ。フェイワイルドにおいて内乱が勃発し、アルヴァンドールにあるセルダラインも今度は大いに荒れた。エラドリンとエルフは、嫉妬の力を持つ蜘蛛の女王に走った黒い同胞と戦うべく、武器を取って立ち上がった。 とうとうロルスとその強力な下僕はアビスに退き、ダークエルフは定命の世界の地下深くに追われコアロンに見捨てられた。私たちの集めたどんな話でも、「それが後のドラウである」っていうことになるね。」

「失ったものを振り返り、そしてアルヴァンドールも多くが廃墟と化してしまったことで、コアロン、セイハニーン、あとセルダラインの生き残りは、ようやくフェイワイルド全土に吹き荒れた暁の戦において、プライモーディアルが称した「創造」は建前に過ぎないことに気が付いた。ロルスの堕落は混沌邪霊が何をもたらすかという確信になっただろう。暁の戦が終わったとき、神々はようやく自分たちの支配する領分について好きに主張できるようになった。受け入れられないなら戦いも辞さないってね。まあ、犠牲ばかりで実のない勝利さ。プライモーディアル達は敗れたものの、神々が一致団結する可能性を潰すことができた。世界の続く限り、混沌と諍いは尽きないものだね。」

ヒストリー・チェック
 全てのキャラクターはエルフとオークの対立の基本的なところを(それぞれの宗教的な背景も含めて)知っているが、種族の起源についてはおぼろげに知っているに過ぎない。すべてのエルフとエラドリンおよび難易度20の<歴史>もしくは<宗教>判定に成功したキャラクターは、フェイワイルドにいた間のコアロンについてと、ロルスとダークエルフの反乱について知っている。コアロンとグルームシュが双子であるという異端の学説を知っているかどうかという判定は、難易度30で<歴史>または<宗教>に成功しなくてはならない。

眠らざる者
「グルームシュほど神的な混沌を持っている神格はいないね。ロルスも良い勝負だけど、彼女の悪は慎重かつ複雑、そして全く気まぐれなんだ。対照的に、グルームシュの怒りは嵐のごとく思慮がなくて小揺るぎもしない。神々の間でも初めから険悪で、決して助けあう関係にはならなかった。とあるお馬鹿な物語によると、神々が集まって自分たちの働きとその信奉者のためにどの領域が与えられるかくじを引いて決めることにしたんだそうだ。想像してご覧、神の支配が抽選で決まるだなんてさ!くじはグルームシュの番が来る前にすべてなくなり、彼には何も与えられなかった。だからそれ以来ずっと憤ってるんだってさ。」

「暁の戦において、グルームシュは誰よりも献身的に戦うコアロンとともに戦った。コアロンは芸術と歌の神であったけれども、将軍としての情熱、そして兄弟としての仲間意識を持って戦ったんだ。だがあるとき、グルームシュはアルヴァンドールで残忍な殺戮をする夢を見た。彼は混沌に抗ったものの、矛盾、暴力的な怒り、抑えつけられない悪に屈してしまったんだ。また、彼の二つ名は「眠らざる者」だった。他の神とくらべてもね。どんなオークの部族でも言い伝えられているのが、グルームシュはプライモーディアルとの戦いで、一度も休んだこともなければ一度も疲れたこともない。実際その体力たるや無尽蔵だったのさ。」

「実際のところ、グルームシュとコアロンの互いを活かした連携は戦いぬくため必要だった。ともにプライモーディアルを下して悪魔的な混沌の軍勢を食い止めてきたが、グルームシュの苦々しい感情と嫉妬は戦いを重ねるにつれ深まっていったのさ。多くに愛されたコアロンは、後から暁の戦に加わったのに軍略と魔術の英雄として称賛されてきた。この保護者はフェイワイルドではフェイにかしずかれ、麗しの定命の者達を自分の庇護下に置いている。それにひきかえグルームシュには、それにふさわしい敬意を払おうともしない。「眠らざる者」はエルフという種族とセルダリンすべてを嫌悪の目で見ていた。弱い、ムカつく、自分のことを好かない。戦争が終わり、自身の定命の存在に対する影響力を見て、グルームシュにはもう我慢できなくなったようだね。」

「おそらく始祖神から授かったかと思われる神的な予見の力のためか、グルームシュは自らが熱望した戦いとその余波について展望が見えた。彼はコアロンの死を夢に見た。コアロンの体がぶった斬りされ、グルームシュは魔法の領域における新しい支配者としてアストラル海を凱旋する自らの姿もね。自らであればそれを現実にできると信じていた。また、エルフなどという幼い種など叩き潰して、代わりに引き裂き、噛みついて定命の世界を戦場へと変えてしまう、己の作る種にとって変えようとも考えた。自分はそのきっかけを作ればいいはずだと。」

ヒストリー・チェック
 難易度20の<宗教>判定に成功したキャラクターは、上記に関連するグルームシュの性質とコアロンに対する嫉妬について理解している。同じく<宗教>判定で難易度30に達した場合は、グルームシュはかつて予見の力を持っていたのではないかという確信がある。そしてそれはもう失われているだろうということも。

血染めの谷
「この伝説の決闘について、ある説はコアロンから挑発したと伝えている。またある説はグルームシュが挑んだのだと主張している。本当のところは、両方とも来たるべき戦いに備え、しかるべき準備をしていたのさ。決闘の場となったのは、エルフがフェイワイルドから最初に抜け出した木々の繁る谷だった。フェイワイルドと定命の領域の境目だったのさ。グルームシュは谷の真ん中に仁王立ちした。巨人のごとき神が身に纏ったのは40匹のドラゴンを殺して作った、黒く染まったハイドアーマーさ。武器は手に持ってはいなかった。」

「『コアロン!』その叫び声は定命の世界のみならずどんな次元界にも響いたそうだ。グルームシュは哄笑して、コアロンのために造られた最初の寺院に植えられ、エルフの魔法によって育てられた樫の木を蹴り倒した。『臆病者の王!出てこい!』」

「間をおかず、コアロンが森の影から現れた。こっちもまた空手で現れたよ。『兄弟よ、我々は戦わなければならないのかな?』春の神は何でもないことを聞くかのように尋ねた。この神による片割れへの問いかけなんだが、大部分の見方は言い回しが反語だったと言っているが、異端の説によればこれは文字通りのものと主張しているよ。コアロンはしなやかな鎖帷子を纏い、空色の外套を羽織っていたよ。」

「『これが終わったら、お前の民は俺に仕える。』コアロンが姿を見せたので、グルームシュは地響きを上げて歩み寄った。『俺には分かるんだ』」

「『まず話し合いをしよう、グルームシュ。戦いは終わった。これは血で解決するようなことじゃない』」

「『いや、血さ。お前はもう血まみれ。』破壊の神は吐き捨てるように言った。『そして、話し合いなど弱い者のためにある。話せばロルスは裏切らなかったとでもいうつもりか?』」

「コアロンはそれを聞いて押し黙った。グルームシュはグルームシュで、話し合うつもりなど初めからなかった。グルームシュがコアロンに突撃するや否や、その手にグレートスピアが現れる。ロルスが破壊の神と共謀していたんだ。蜘蛛の女王はグルームシュの強力な武器に恐ろしい魔法をかけて見えなくし、先端に毒を仕込んでいた。グルームシュは一突きで殺してしまおうと目論んだのさ。勝利の雄叫びをあげ、コアロンの胸目がけて槍を突き入れた。」

「だが、どっちの神も正々堂々なんて戦ってはいなかった。コアロンの形をしていたものはセイハニーンが使う中でも最も強力な幻術で、緑の葉と月光の露が渦を巻いて消えた。一杯食わされたことに毒づき、グルームシュが周囲を見渡す。コアロンの実体は谷を隔てた岩の頂上にあり、グルームシュの鋭い目は必死に探していた。だが遅すぎたのさ。コアロンから神の力を帯びた矢が音を立てて放たれ、破壊の神の目に突き刺さらんばかりに近づいた。これを踏まえて、エルフの語り部なら『グルームシュが片目となったのはそのときからです』と言うところだろうけれど、それは眠らざる者を侮ってるし、才能を認めたくないんだろう。グルームシュの「先読み」はとっさに首を回させるだけの力があった。コアロンの矢は、血の線を額に1本引いて終わったのさ。」

「痛みでグルームシュはいきり立った。傷で活が入り、オークの戦士が暴力に飢えるかのごとく戦いへの渇望はいや増すばかりだ。グルームシュは激発して高笑いした。その轟く声たるや世界中でこだましたほどさ。二の矢をつがえる機会がないと悟ったコアロンは弓を捨て、岩から飛び上がり、谷の中心でグルームシュに相対した。その手には暁の戦の前から輝く星の欠片から鍛えた剣が一振り。ドワーフのクレリックですら、この世に造られた中で最初の、そして最強のロングソードと認めるほどの逸品さ。」

「二柱の神が激突したとき、セルダラインの神々と従者たちが谷の影から現われた。コアロンは知らなかったが、彼の親しい者たちも戦いに加わろうと来ていたんだ。戦いに加わることが公明正大かどうかなんて脇に置いて、自分たちの命運を決める戦いに手をこまねいていることなどできなかったんだろうね。一方グルームシュはそういう事態は織り込み済みで、セルダラインを落とさんと勇み立つ神々や、自らのエグザルフを率いていた。そして時は至り、両者は激突。谷は渦巻く泥、呪文の炎、それに血しぶきの溜まりと化した。神学者の中にはこれを「神々の戦い」と呼ぶ者もいるけれど、この戦いに加わった多くの神々はお互いの恨みからに過ぎず、コアロンとグルームシュの衝突をダシにしただけなんだ。」

「もちろん、戦いに加わらなかったのもいるよ。特にバハムート、エラティス、モラディンといった秩序の神は遠くから戦いを眺め、自らの同胞たちが混沌をまき散らすのに頭を振った。『プライモーディアルが天界の外側を壊したことだけでは飽き足らないのか?』って憤慨したのさ」

「戦いの第一幕では、コアロンとグルームシュの間に有効打は出なかった。両者はあらゆる点で相手の攻撃を完璧にいなした。コアロンの比類のない機敏さとグルームシュの無尽蔵の体力のため、お互いに武器を再三再四振ったもののことごとく防がれ、即死の一撃はどれも通らなかった。コアロンの方が早かったけれど、グルームシュの先読みはエルフの神の剣筋をすべて見切ったんだ。神の戦いは何日にもわたった。他の連中はみな疲れ果て、これ以上続けられずに退いた。永劫の時を生きる連中ですら疲れたみたいだね。」

「だがグルームシュもコアロンも止めようとはしなかった。コアロンの方は疲れを感じ始め、これ以上グルームシュと戦い続けられないと悟った。できるだけ定命の文明がない場所をと、コアロンは相手を未開の地に誘い込んだ。グルームシュはコアロンに合わせ、自分の槍を抱え、怒りの咆哮を上げて地を蹴る。彼らの通った後は峡谷が開き、丘はふもとから裂け、嵐が巻き起こった。足場の脆い、グルームシュの怒りを防げそうな場所を見つけ、コアロンは振り返って戦いを再開したんだ。ここまできて、ようやく両者とも本当に傷を負うに至った。神達の血が撒き散らされ、地面に浸み込んだ。コアロンの剣はグルームシュの肉を裂き、毒の槍は魔法の神を突き刺した。」

「コアロンはギザギザの山壁を背にした、抉られて陰鬱な荒れ地に逃れる。疲労の極みで休みを取ったんだ。やがて夜の帳が降り、闇の力が増したかに感じられた。世界の端にいたためか次元の境目は薄く、実際フェイワイルドからの精霊と歌の力を引き出すことができたのさ。グルームシュが後からやってきて、獲物の匂いを嗅ぎつけた。再び二つの神は激突し、最強のタイタンも倒れるほどに互いを傷つけあう。血は雨の如く降り注ぎ、とうとうコアロンは絶好の機会を見出した。」

リリジョン・チェック
 難易度25の<宗教>または<歴史>判定に成功したキャラクターは、神々の戦いとその解釈をいくつか知っている。とある王国が歴史について密かに管理していた中にも、古代史で神々の戦いを扱ったものはあり、難易度30の<宗教>判定に成功すればコアロンのグルームシュとの長い戦いについて「正確な」詳細が判明する。

曇った野望
「そしてとうとう、神話の戦いも最も解釈の分かれるところに来た。お客が気に入らない説を話すと・・・まあそれは相手によって違うけれど・・・弓を引かれたり、容赦のない呪文が飛んで来たり、武器を抜かれたりするよ。問題になるのは何がグルームシュを誤らせたか?ってことだね。」

「オークどもに言わせれば、デーモンのロルスが介入したということになっていて、その蜘蛛の姿よろしく山壁の亀裂から這い登り、グルームシュに闇のまやかしを放って気を逸らせたということになっている。他の説はセイハニーンの月が曇り空を裂き、容赦のない月光で目くらましさせたいうものもある。」

「最初の見方を取るとしよう。ドラウは子供たちに、ロルスがグルームシュの槍に仕込んだ魔法が最後に裏切り、グルームシュを麻痺させ相手に貴重な一瞬をあげたって教えているようだよ。だけどなぜ蜘蛛の女王は見返りなしでグルームシュを裏切ったうえ、憎きコアロンに勝利を贈ったかを説明できる者はいない。もっとも、愛と憎しみなんてときに一緒さ。どっちにしろ思い込みは危険だね。」

「セイハニーンが形勢逆転に一枚かんだという論もあるね。こっちだとコアロンに絶好の一瞬をあげたとしても否定の余地はない。グルームシュの動揺が仕組まれていたか偶然であったかどちらにしても、月の弓、セイハニーンはコアロンの妻だし、彼女の光が夫の最も不利なところで力を与えたんだろうさ。個人的には、セイハニーンが最後の局面に関わっていたことはほとんど疑っていないよ。ロルスが近くにいて、戦いを見ながら魔法を使い、何か謀っていたかもしれないけどね。」

「たいがいのエルフは、戦いがあまりにも長かったため、コアロンの体力がついに疲れ知らずのグルームシュを疲れさせたとか、隙ができた破壊の神に一撃を見舞ったという説のどちらも信じてはいないね。」

「だが実際にあったことなのさ。コアロンは素早く鋭く一撃を入れた。その剣はグルームシュの左目に突き刺さり、敵を壁に叩きつけた。グルームシュが吠え猛る中コアロンは剣を捻り、傷を治すことのできないよう蛮勇の神の頭に穴を穿ったんだ。グルームシュはコアロンを力任せに叩きつけ、地面に倒して動けなくした。麻痺毒を塗ったグルームシュの槍がようやく効くようになったんだろう。」

「これまで傍観を決め込んだロルスだったが、急に山の影から出てきてコアロンに近づいた。果たして戦いにつかれた保護者を殺しに来たのか、はたまた許しを請いに来たのか?今となっては知る由もないよ。というのも、セイハニーンがその前に立ちふさがり、蜘蛛の女王による嫉妬の力を止めたんだ。」

「グルームシュは明らかに乱入したどちらにも気が付かず、苦悶で地面に倒れた。目のあったところから黒い膿が溢れ出す。残りの目すら傷の痛みでかすみ、破壊の神は傷をかきむしる。グルームシュは選択を余儀なくされた。このまま戦ってもう一方の目も失うか・・・続けていればグルームシュですらそうなっただろうけれど・・・それとも退却するか。」

「そこで再び近づくことのできなかったロルスが、破壊の神の心に直接囁いてきた。『グルームシュ、私の所においでなさい。私があなたの傷を癒し、その心の奥底にある望みをかなえて差し上げましょう。ともにコアロンの栄えある死を奏でるのです。私は彼の秘密、彼の弱み、彼の恐れる物を知っているのですから。』甘美な誘惑だった。身の安全とコアロンの死は捨てがたかったろうが、グルームシュはロルスを相手にしなかった。ロルスは信用ならないデーモンで、過去に一度裏切られていたからね。」

「「片目の」グルームシュはコアロンに向かって咆哮したものの、その目はもうほとんど見えてはおらず、一息つこうとして、なおも戦いが続くなら危ういところだった。グルームシュは「保護者」に対してその行いを呪い、本人には永遠の苦痛、そのコアロンが創ったものすべてに復讐を、そして永遠にエルフを殺し続けると誓ったんだ。なんというか、雰囲気ばかりで中身のない話だね?もっとも誰かがあんたの目玉をくり抜いたとしたら、あんたの呪いや激情がグルームシュに力を与えるかもしれないね。」

「一方、オークはこの神話の戦いで全く異なる話をするよ。連中曰く、グルームシュはずっと前から一つ目であったそうだ。その額の真ん中には瞬きすらしない宝珠が埋まっており、「見つめる者」は誕生時に自ら目を引き抜いて自分の感覚を深め、また混沌への忠誠を誓ったそうだ。コアロンがグルームシュの目を奪ったという説は、オークにとって冒涜になるのさ。連中によると、二柱の神は戦ったものの、臆病者のコアロンはグルームシュの怒りを前にして、敵わないとみるや尻尾を巻いて逃げたと。この説によると、エルフの父はフェイのまやかしを使ってグルームシュの気を逸らし、それでどうにか逃げおおせたらしいね。」

「自分たちの神の目がいくつあろうと、オークのシャーマンは片目を抜くことを求められているね。たいがい左だ。なぜかって?これは見つめる者への献身やそれが受けた痛みを分かち合う行為だそうだ。オークは、片目のグルームシュがその儀式を漏らさず見ており、すべてに審判を下されると信じているよ。」

それから
「とうとうグルームシュは立ち上がって踵を返し、背後の山壁をぶち抜いて逃げたよ。汚れた膿が指の間から滴った。そして目はどうなったかというとね、前に触れたけど、グルームシュの左目は先読みの力の源だったんだ。そしてコアロンはそれを知っていた。」

「わかるかな、保護者がこの酷い戦争で賭けたのは己の矜持なんかじゃなかったのさ。コアロンはグルームシュが見ていた予見の夢の内容を知っていたんだ。おそらくアイウーンからだろうけど、かなりの対価を払って、コアロンはグルームシュからその能力を永遠に奪う方法を知った。保護者はグルームシュを殺すことがどうしてもできなかった。グルームシュも神であり、自分の世界を持っている。だが与えた予見の力に相応しいものではないため、放っておくといつかこの神はプライモーディアルほどの力を持ちながら、ただ殺すことのみを楽しむようになる。自分にはグルームシュを殺せないが、その目を奪うことはできる。で、そうしたのさ。」

「目は破壊された、少なくともそう思われる。グルームシュが撒き散らした自身の神髄は逃げた山の隙間に浸み込んだ。そこはプライモーディアルの懐で、新たな怪物が生まれたんだ。時に人が明るみにする、歪んだ欲望を持った恐ろしい獣さ。」

「物質界との境目が薄かったため、グルームシュの膿はフェイワイルドまで浸み込んで深く根を張った。それがフォモールだという者もいる。怪物じみた、フェイの世界を象徴するような巨人は怒れる神の残滓を浴びて邪眼を得たってね。すべてのフォモールは、祝福されたにしろ呪われたにしろ、片方の目が禍々しく膨張し、恐ろしい苦痛と恐ろしい力で苛んでくる。あとキュプロクスをご存じだろう。フォモールに仕える一つ目の巨人さ。あれはオークがグルームシュを模したのと似てはいないかな?偶然の一致なんてことはないと思うね。」

「勝者としてであろうと、敗者としてであろうと、グルームシュが戦場を離れた際、その意志、その憎悪、その血が最初のオークたちに悪意を植え付けた。特に血は戦ったすべての場所で定命の者達に混ざっていったんだ。自身の最も苦境の時、グルームシュは今一度黒い夢を見た。すべての種族が自分だけに仕え、コアロンの創ったものすべてを略奪して破壊する夢を。そしてオークはグルームシュの力強きスピアが開けたといわれる窪地、荒地、洞穴に住処を構え、エルフとその守護者に対して憎悪を燃やす。」

「オークの憎悪が激しいほど、グルームシュがコアロンに対して抱く殺意は増していく。コアロンによって奪われたのは目だけではなく、持っていた先読みの力まで失くしてしまったわけだからね。そのため、一つ目のグルームシュはコアロンをはじめとするすべての神々に復讐を誓った。眠らざる者は今日に至るまで神々の中でも凶暴な戦長としての顔を失っていないから、他の誰にも信用されることはないし、見ないふりをするにはその怒りは激しすぎるね。」

「一方、コアロンもまた戦いで定命の世界に自分の血を大量に撒き散らしていた。エラドリンがフェイワイルドの安全な隠れ家を好む一方、外の世界に踏み出したエルフは守護者の苦しみと痛みに深く触れることになったんだ。月の光がコアロンの血を照らしたとき、それは霧となってエルフたちを清めた。その心にある、グルームシュに対する抵抗の意志と憎しみが新たにされたね。コアロン達が戦い、とうとう勝った時に立っていた荒地は新緑の森となり、山壁の際は原生林となった。その地はたくさんの呼び名があり、エルフとオークは今日に至るまで争っているよ。」

ヒストリー・チェック
 ほとんどのキャラクターは、戦いの終わりにコアロンがグルームシュの目を見えなくしたことを知っている。<宗教>25か<歴史>30の判定に成功すれば、セイハニーンやロルスの介入や、グルームシュとフォモール、キュプロクスとのつながりなど、それからの出来事についても余さずわかっている。

シナリオフック
 コアロンやグルームシュをキャンペーンに使いたいマスター向けにいくつかヒントを書いておく。セルダラインに関してさらに知りたいときはドラゴン誌#386「チャネル・デイヴィニティ:コアロン」、ドラゴン誌#394「チャネル・デイヴィニティ:コアロンの信奉者たち」、ドラゴン誌#386「チャネル・デイヴィニティ:セイハニーン、月の弓から放たれた矢」を参照してほしい。

目は死せず
「見つめる者」を信奉する中でも異端のカルトが、オークの部族の中で勢力を増している。連中は、グルームシュの目がコアロンによって損なわれたことを(オークとしては珍しく)認めているが、失われたわけではないと主張し、その目はアーティファクトとして強力な力を持つと信じている。オークの従来の信仰にあるような、シャーマンが目を抜いて復讐を誓うようなことをしない代わり、オークの勇者を集めて版図を広げる勢いを見せている。信託の力を持つそれは、果たして本当にグルームシュの目なのであろうか、あるいは他のエージェントがオークを操り、何か他の、いや、もっと悪い何かをさせようとしているのではないだろうか?

ふたつからひとつを:フォモールは神を信仰しないが、とあるフォモールの魔女(ダンジョン誌#176)がエルフとエラドリンにご執心で、グルームシュに近づける形で自ら新しい種を作り出せると信じ込んでいる。ドラウ貴族の分家の助力を得て、有名なエルフの女ソーサラーと強力なオークのウォーロードを捕縛した。この魔女は儀式によって二人を融合させることで、新しい種族を生み出せると確信している。また、この行いが醜いフォモールを美しく変化させるための鍵になると思っているようだ。もし儀式が行われてしまえば、エルフとオークに新たな敵ができるのは火を見るより明らかだ。英雄たちはフェイダークに乗り込んで魔女の儀式を止めなくてはならない。

再戦:世界中のオークのシャーマンたちが「一つ目」グルームシュよりコアロンとエルフすべてに対して新たな戦いを挑むつもりだという予兆を授かる。簡単に言えばグルームシュは再戦を望んでおり、コアロンの目を奪うだけでは復讐にならないということだ。またアルヴァンドールが蹂躙され、フェイワイルドのエラドリンもグルームシュから逃れることはできないだろう。

著者について
 ジェフ・ラッサーラは推理物のフィクションの著作・編集やゲームデザイナーを生業にしている。彼の最初のエベロンの小説であるThe Darkwood Mask(未訳)には彼の闇と怪物、そして仮面に対する愛情が込められている。彼はたいがいニューヨークの深淵におり、ガーゴイルのごとくじっと座りjefflasala.com.を更新している。7歳の時、兄に金属製のダーツを目に当てられたことがあるジェフはグルームシュの痛みを理解できるのだ。(もっとも、彼はコアロンの側の人間だが)

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