こちらはDAC愛知2012で行うセッションの資料の1つであり、
D&D Insider よりTavern Profile: Jaggerbad Skyhouse の関係部分を
まとめたものになります。モンスターのデータなど一部省略しておりますので
ご注意ください。

宿屋一覧:空飛ぶ家、ジャガーバッド
ウィル・ドイル

 ある者は噂する。ドラゴンの背中で旅をする宿屋のことを。この魔法をかけられた空飛ぶ宿屋は、星の宮廷にいる気まぐれなアーチフェイの契約に縛られ、次元界から次元界へと果てしなき旅を続けるそうだ。フェイより滞在できる栄誉を賜った者はドラゴンの名を唱え、欲する目的地へと旅立つのだと。

 次元の向こう側にいるお客、従業員として働くフェイに呪いをかけられた冒険者、君たちの見ていないところにもおよぶ見取り図などなど、この魔法をかけられた宿屋には冒険の要素がふんだんに散りばめられている。自分の冒険に次元間旅行を取り入れたい、もしくは神秘に満ちたフェイワイルドと星の宮廷の導入にしたいダンジョン・マスターにとって、空飛ぶ家ジャガーバッドは記憶に残る一歩になることだろう。

由来
 何百年もの昔のこと、あまりにも古くて誰も覚えている者がいないほどの過去に、空飛ぶ家ジャガーバッドは“緑の妖精族”の支配者オラン公の手によって“夏の女王”ティアンドラに贈られた。二人は一緒の翼で世界を旅し、あらゆる世界の驚異を目の当たりにしたり、敢えて怪奇を見に向かったりした。だがフェイの情愛は砂のごとく移ろい、ほどなくティアンドラはオランに家を返すことになる。彼女との恋愛ゲームに疲れた緑の王は、自らの最もお気に入りの僕であるフライに家を下賜し、好きに使えと命じた。
 それから数世紀の間、フライは空飛ぶ家に主人の客を乗せ、宮廷との送迎に供した。かつてオランとティアンドラが使っていた部屋は訪問客用のスイートルームに、ダイニング・ホールは他の世界へと旅する使節のためのバーとなった。物質界からの訪問者もよくある。事を単純にするため、フライは魔法を用いて彼らに干渉する。機会を見計らいつつ、この狡猾なフェイはどこからともなく空飛ぶ家を出現させ、次元界の向こう側へと旅することに何の疑問も持たない連中を騙し同然に運んでいく。中には裕福、あるいは英雄となって還れた者もいた。残りは永遠に忘れ去られた。

宿屋の見取り図
 草で葺かれた玄関が超巨大のアイロン・ドラゴンの背中に括り付けられている。建物全体が鞍の上に置かれ、飛行中も安定させるため、材木と布がコンサティーナ(蛇腹状の鉄条網)のように巻かれている。折りたたみの帆がドラゴンの横っ腹にロープと綱具で取り付けられ、木からできた喋らない乗組員が働く。離陸の間、階段と発射台、ブリッジは乗組員がせわしなく動き回る。
共用スペース:乗客はかごに入れられてドラゴンの背に吊り上げられると、まずこちらに案内される。遮光板付きのランタンから薄暗く光が漏れ、煙が空気を伝って妖精のように飛び回る。壁はマホガニーで葺かれ、暗く柔らかなカーテンで仕切られた先にあるのが打ち合わせ用の個室だ。
「いかがわしい」店ではないということ:空飛ぶ家は、次元を渡りながら力ある存在をおもてなしするホストとしての役割があり、その外と中の感覚の違いについて、スフィンクスのごとき意地の悪い謎が隠されている。アーチのかかった窓からは、どんな次元にいてもドラゴンが現在飛んでいる風景が見える。この家の入口をくぐった者は見た目よりも建物が大きいという感じを受けるが、それは目の錯覚だ。実のところは宿屋全体に強力な魔法がかかっており、お客のほうを小さくしてしまう。
従業員用の場所:乗客立ち入り禁止の部屋が魔法で隠されたドアの向こうにある。宿屋の支配人は合言葉を毎日設定し直すが、時にそれが日に幾度にも及ぶため、従業員が締め出されてしまうこともある。支配人の部屋は台所付きの豪華なもので、何より重要なのが飛行中にドラゴンと会話できる専用のバルコニーだ。
客室:二つある階段は吟遊詩人の楽屋や共用スペースにつながり、カーテンの向こうに客室がある。通路は誰も見ていないところで動き、お客を迷子に、あるいは間違った部屋へと連れていく。隠し通路は絵の額縁の裏にあり、魔法の錠がかかったドアは合言葉を言えば開くのかもしれない。そして長く使われていない部屋、ことによると別の次元界へと誘う。

宿屋の従業員
 料理人、食器洗いやバーのスタッフは、自発的だったりそうではなかったりの違いはあるが、すべて皆「フライとの取引」によって雇われた定命の存在だ。いったん契約が結ばれれば、契約が満了するその時まで魔法的な力で留め置かれる。フライの「お客」の扱い方は相手によってまちまちだ。ある者と関係を持って別な者に対して当てつけてみたり、またある者に対していきなり忍耐の限界を示したり。その取引条件は宿屋の主人ご本人と同じくらい意表を突くものであるため、宿屋の従業員名簿は絶えず変更がある。とある旅の間、冒険者は無垢な少女さながらに奉仕したとしても、次に気が付けば無慈悲なドラウの傭兵が後釜に据えられているかもしれない。
宿屋の主人、フライ:オラン公の特使は定命の者に対して数多くの名前を使い分ける。あるときはウィリアム=ファインソート、ありえないほどの異性を惹きつける神々しい美しさを備えた妖精、またあるときはグリーン=ネイヴ、人を不愉快にさせたり旅人の行く先を誤らせて片道の旅にしたりする嫌な奴、またあるときはホブ=ノッカー、定命の赤ん坊をチェンジリングとすり替え、(赤ん坊に化けたチェンジリングから)秘密を集めてばらす悪党。
 フライはたいがい若いハーフエルフのなりをしているが、所々年経た感じをにおわせる。感情は水銀のようにコロコロ変わり、ジョークを飛ばした次の瞬間にはひどく憂鬱な顔を見せる。仕事の時だけは人格が一貫しており、元気の良さと粘り強さ、しなやかな鞭のような柔軟性を兼ね備えている。
 フライはオランに熱烈な忠誠を誓っているが、その感情は賛美と恐怖相半ばといったところだ。公のお客様は常に最大級の贅沢と最優先の取り扱いを受ける。しかし、こうした忠義とはまた別に、フライは女王ティアンドラに対しても非常に大きな思慕の念を胸に秘めている。主人に気づかれることのないよう、フライは定期的にセイナリッセの新緑の木立に立ち寄る。そこでもう一人の主人に対し、自らの「わがままな」下僕の話をすることで彼女の物質界に対する愛着を深くさせているようだ。


ジャガーバッド:このアイアン・ドラゴンはオラン公に従属し、ただ一つの役目を負っている。それは時計。目的地に着くまで決して立ち止まることはなく、必ず時間通りに去り、航路を外れることもない。定刻を危うくするようなことでもない限り、彼が宿屋の中での出来事について関心を払うことはほとんどない。
 ジャガーバッドはフライのことを空の専門家だとは見ていないが、その指示に異を唱えることは決してない。次元間飛行で迷わないようにするため、目的地までの詳細な地図や方向を魔法で示した巨大な巻物を広げる。空飛ぶ家のことを呼ぶものはみな、ドラゴンが定刻通りに現れるなど考えもしなかったと話す。
 ジャガーバッドの物語について、さまざまな憶測がある。ある者によると、ジャガーバッドはエラドリンの都市で、次元の間で揺蕩う(たゆたう)イシミリエルで戦った。そこは昼の間は物質界にあるが、夜の帳が降りるとフェイワイルドへと姿を消し、護りを固めて戻ってくる。そこを落とすため、ジャガーバッドはアーチフェイと契約を結ぶ。イシミリエルの移動を止める代わり、オラン公に忠誠を誓うというものだ。それから後のこと、ドラゴンはお召しに遅参した。緑の王はジャガーバッドに千年の隷従、その間オランの空飛ぶ家を背負う罰を科した。もし再び遅れることあれば、誇り高きオラン公はさらに百年を追加するのだと。
 真実はどうあれ、ジャガーバッドはこと時間に関して厳格だ。また、自身の気質は数十年で丸くなったかもしれないが、いまだに己の解放を夢見ており、おそらくは長く自分のことを虐げた連中に目に物見せてやらんと我慢強く作戦を練っていることだろう。

木製水夫:長い昔、この自動機械は夏の女王によって作られた。単純な思考とある程度の自律行動能力を持つが、これらの役目に帆の扱い以上のものはない。非常時において、フライはこいつらに命じて招かれざる客を追い払うよう命じることもできるが、そういう使い方はほとんどされていない。


お客たち
 空飛ぶ家には常連客というものはいない。客はオラン公の宮廷に招かれたか、この気まぐれなフェイによって次元を跨ぐ旅をする機会を授かった旅行者のいずれかだ。一般に、よその次元界からのお客は社交的な部類の人物で、この旅を次元間貿易や違う世界の神秘を探るチャンスと考えている。もちろん悪人も紛れており、空飛ぶ家を窃盗や暗殺のためにある完璧な密室と見ている。キャラクターが訪れたとき、2度ロールしてみよう。一つ目がどんなお客がいるか、二つ目はどんな目的で旅をしているか。

d10 お客
1 ベールを被った姫とその侍従
2 刺青を入れたデヴィル・ハンター
3 次元探検家とお付きの地図職人
4 金のターバンを巻いたドワーフ
5 霜のテーブルにいる冬のフェイ
6 マインド・フレイヤーの海賊
7 ウォーロードのサラマンダーと護衛
8 逃亡中の天使
9 駆け落ちした恋人たち
10 ビホルダーに乗ったノームの幻術師

d10 旅の目的
1 囚人を護送する
2 神との謁見を求めて
3 行方不明の友人を探す
4 スリー・ドラゴン・アンティで勝負する
5 魂を入れた小箱を運ぶ
6 ベインのエグザルフと会見する
7 オラン公の宮廷で結婚式を挙げる
8 夢の次元界を探索する
9 呪いを解く
10 セレスティアまで王のご遺体をお運びする

空飛ぶ家を導入する方法
 大部分のお客はドラゴンの名を唱えて空飛ぶ家を召喚する。絶えずその気まぐれな好奇心を満たすことのできるような、オラン公の覚えがめでたい者達は、その褒美として呼ぶ方法を授かるかもしれない。また、とある強大な力を持つ王がオラン公の廷臣を虜囚から解放したが、農夫のしかけたウサギ罠に早速嵌っていた、というやり方もある。冒険者たちに、それとは気づかず何かフェイが恩に着るような筋書きをアレンジしてみよう。その後オラン公の特使が現れ、彼らにジャガーバッドの召喚方法を授ける。この特使はフェイでもいいし、喋る動物でもいいし、ある種の自律行動する物体でもいい。
 他にも宿屋を導入する方法がある。荒野のど真ん中でキャラクターと鉢合わせさせるのだ。フライはよく「消耗品」を補充するために寄り道し、「一泊しにいらしたお客様」を喜んで受け入れる。だがお約束として、この手の歓迎には裏があるものだ。「お客様」はドラゴンが発つ前に宿屋を離れなくてはならない。テーブルで居眠りし、気がつけば違う次元にいるかもしれないし、部屋に戻ろうとして動く廊下に邪魔されたりするかもしれない。そして悪意たっぷりの宿屋の主人が旅費として法外な金額を吹っかけ、その支払いができるのは彼とフェイの契約を結ぶしかない、という状況に仕向けてくる。
 第三にフライ自身が冒険者たちを探している、というやり方もある。フライは自由な旅と裕福で強力な権力者とのコネクションをちらつかせて誘ってくる。その実、彼との契約で親指を合わせた(同意した)人はみな魔法の束縛にかけられている。これは違う世界にいるキャラクターを、次元間のキャンペーンでパーティーを組ませるのにうってつけの方法だろう。空飛ぶ家が次元界を巡るうちに不思議な人、不思議な出来事に遭遇し、その一方で課せられた妖精の取引で裏をかくために協力する。

フライとの取引
 宿屋の主人との取引は、犠牲者を魔法の力によって奴隷として拘束する。各々が違った責務に四苦八苦し、空飛ぶ家を離れるのにも特別な許可がいる。仮に逃げおおせたとしても、眠りに就いて目が覚めると元の部屋に戻っているのに気づく。
 フライとの取引は一種の呪いのようなものだ。大休憩終了後、技能判定を行って呪いの進行を決定する。(注:詳細は別途)この判定はその日に行ったお客様への仕事や、宿屋の主人に対するご機嫌取りを意味している。判定で仲間の援護を行うと、自らの分は自動的に失敗する。呪いを解くために、キャラクターは自らの契約を満了させねばならない。内容は1週間ほど空飛ぶ家に乗っていれば済むということもあれば、ワーウルフの眉毛をむしってくるまでというのと同じくらい突飛なものもある。

フライとの取引 レベル19 呪い
「私と親指を合わせてください。それで妖精の取引は完了です」
宿屋の主人との契約がこれほど厄介で命をかけたものになるなど、この時誰が想像しえただろう!
段階0:呪いは不活性である。
段階1:目標は妙な囁きや怪しい影に煩わされ、すべての技能判定に-2のペナルティを受ける。
段階2:目標は絶えず悪戯な妖精に意地悪される。(段階1に加えて)セーヴィング・スローを行う際は2度ロールし、常に低い方の結果を採用する。
段階3:目標は夢と現実の区別がつかなくなる。(段階1・2に加えて)戦闘の開始時より、目標は幻惑状態(セーヴ・終了)になる。
判定:大休憩終了後、目標は技能判定(注)を行う。
○以下:呪いは1段階進行する。
○-○:変化なし。
○以上:呪いは1段階治癒する。(段階0の場合変化なし)
解呪:目標はフライとの取引に書かれた、複雑な契約の満了条件を満たす。

注:技能判定の詳細・方法は別途記載します。○には難易度が入りますが、
いくつになるかは現在のところ未定です。

空飛ぶ家を舞台にした冒険

 次元界の不思議がちょっと翼をはためかせるだけでできてしまうので、空飛ぶ家を舞台にした冒険は決して難しいものではない。以下の導入を君自身の物語に役立ててほしい。

導入:ドラゴンの遅参
 冒険者達はエラドリンの古代都市、イシミリエルの賢者からコンタクトを受ける。彼らの記録によると、ジャガーバッドの一千年に及ぶ隷従の刑がそろそろ終わろうとしているそうだ。彼らはドラゴンを恐れており、ドラゴンが自由の身になってしまえば都市に戻って破壊し尽くすのは目に見えている。都市の破滅を防ぐため、プレイヤーはドラゴンを遅れさせる方法を見つけ、オラン公を欺いて刑期を延長させなくてはならない。

導入:かっぱらえ
 エラドリンの貿易商が、ジャガーバッドの航路が書かれた巻物を盗むべく冒険者たちを雇う。貿易商の商売敵が空飛ぶ家で旅をするので、旅の最中にトラブルをしかけて出し抜くつもりでいるようだ。冒険者たちはどうやってドラゴンの飛行中にその荷物袋から巻物を盗み出すか、そしていつその商売敵が来るかについて検討をつけなくてはならない。

著者について
 ウィル・ドイルは英国在住のビデオゲームデザイナーだ。この記事によって、ダンジョン誌で自分の書いた文章が掲載される、という人生の目標の一つが達成された。D&Dをプレイしていないときは、彼女と一緒にビホルダー・パイ(http://beholderpie.blogspot.com/)というブログを更新している。

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